あなたは、目の前にあるものを、どこまで正確に見ていると思いますか?
「ちゃんと見ているに決まっている」。そう思うかもしれません。ところが、私たちは視界に入る情報のすべてを認識しているわけではありません。
しかも、何に注意を向けるかによって、同じ場所にいても気づくものが変わります。私は、この認識の仕組みがゴール設定を考えるうえでも非常に興味深いと思っています。
今の自分に見えていない選択肢が、ゴールを変えることで見えてくる可能性があるからです。
スコトーマとは何か?
スコトーマ(scotoma)は、もともと眼科で「暗点」を指す言葉です。視野の一部が見えない、あるいは見えにくい状態を意味します。
一方、コーチングでは「心理的な盲点」という比喩的な意味で使われることがあります。目の前にチャンスがあっても気づかない。他人には思いつく方法が、本人には見えていない。そんな状態です。
ただし、医学的な暗点と、注意の偏りによる見落としは同じ現象ではありません。この違いを知ったうえで、認識の仕組みを考えてみましょう。
目の前にゴリラが現れても気づかない?
1999年、心理学者ダニエル・サイモンズとクリストファー・チャブリスは、興味深い研究を発表しました。参加者に、映像の中でバスケットボールをパスする回数を数えてもらったのです。
実は、その途中に予想外の人物が現れます。それでも、その存在に気づかなかった参加者がいました。
目を閉じていたわけではありません。画面を見ていたのに、気づかなかったのです。

この現象は「非注意性盲目(inattentional blindness)」と呼ばれます。何かに集中していると、別の出来事を見落とすことがあるのです。
もし大きな対象でさえ見落とすことがあるなら、人生の選択肢についてはどうでしょうか。自分にできる仕事や、新しく挑戦できることにも、まだ気づいていない可能性があるのではないでしょうか。
もちろん、この実験が直接示したのは、特定の注意課題における見落としです。人生の可能性については、そこから私が広げて考えていることです。
なぜ、人によって見えている世界が違うのか?
例えば、あなたが車を買い替えようとして、特定の車種に興味を持ったとします。すると、それまで気にしていなかった同じ車種を、街中でよく見かけるようになるかもしれません。
急にその車が増えたのでしょうか。そうとは限りません。以前から存在していた車に、注意が向くようになった可能性があります。

人間は、膨大な情報の中から、自分にとって重要だと判断したものを優先して処理します。現在の関心や目的、過去の経験などが、その判断に関わります。
何を重要だと判断するかが変われば、認識する情報も変わり得る。私は、ここをゴール設定の重要な入口だと考えています。
ゴールを設定すると、何が変わるのか?
会社員として働く人が、今の会社で昇進することを目標にしていたとします。日頃から気になるのは、社内の評価や昇進に役立つ情報でしょう。
ところが「自分で事業を立ち上げたい」というゴールを設定したらどうでしょうか。今まで気にも留めなかったビジネスモデルに興味を持つかもしれません。人との会話から、新しい仕事の可能性を見つけることもあるでしょう。
ゴールを設定した途端に、チャンスが突然生まれたとは限りません。以前から存在していた情報を、新しい目的に照らして認識するようになった可能性があります。
ただし、情報に気づくことと、事業が成功することは別の問題です。ゴールを持つだけで結果が保証されるわけではありません。
現状の外側にゴールを設定する理由
ここからは、私が講義で扱っているゴール設定の考え方です。
多くの人は、今の自分にできることから未来を考え始めます。現在の収入を基準に、来年はいくら稼げそうかを考える。今の能力を基準に、どこまで挑戦できるかを判断する。
もちろん、現実的な計画は必要です。しかし、今の自分を基準にしている限り、未来も現状の延長になりやすいのです。
例えば月収30万円の人が35万円を目標にすれば、今の仕事をどう改善するかという発想になりやすいでしょう。
一方、今とはまったく違う働き方をゴールにしたら、同じ会社で頑張るという選択肢だけでは足りないかもしれません。仕事の選び方そのものを見直す必要が出てきます。

私は、現状の外側にゴールを設定する意味の一つは、こうした認識の枠組みを見直すことにあると考えています。
ホメオスタシスと現状維持
ホメオスタシスは、生理学では体温など身体の状態を一定の範囲に保つための調節機能を指します。暑くなれば汗をかいて体温を調節する、といった働きです。
一方、私の講義では、ホメオスタシスを現状維持やゴール設定との関係でも扱っています。慣れ親しんだ状態を当たり前と感じ、そこから外れることに抵抗を覚える場合がある、という考え方です。
例えば、独立したいと考えているのに、行動しようとすると急に不安になる人がいたとします。生活を変えることに抵抗を感じているのかもしれません。
ただし、こうした心理的な抵抗をすべて生理学的なホメオスタシスで説明できるわけではありません。講義で扱う応用的な考え方と、生理学で確立された意味は区別します。
未来を基準にして、現在を見直す
私が情報空間の講義で伝えているのは、未来のゴールを基準に現状を見直すという考え方です。
過去に失敗したから今回も難しいだろう。今まで経験がないから自分にはできないだろう。そう判断することがあります。
しかし、未来のゴールを先に設定したらどうでしょうか。その未来を実現している自分なら、今の状況をどう捉えるだろうか。今まで当然だと思っていた選択を、そのまま続けるだろうか。
未来から現在を見直すと、過去の経験だけを基準にしていたときとは違う考え方が生まれる可能性があります。
これは私が扱う情報空間の理論に基づく実践的な考え方です。未来の情報が物理的に過去を変えることや、氣幸による情報空間の書き換えが科学的に実証されているという意味ではありません。
スコトーマを外すには、どうすればよいのか?
スコトーマを外せば何でも見えるようになる、という単純な話ではありません。私たちの注意には限界があります。あることに注意を向ければ、別のことを見落とす可能性もあります。
だからこそ、今の自分が何を重要だと考えているのかを見直してみてください。
あなたのゴールは、本当に望んでいる未来でしょうか。それとも、今の自分にできそうなことを選んでいるだけでしょうか。
ゴールが変われば、注意を向ける対象が変わる可能性があります。そして、見えてきた情報を現実の条件と照らし合わせながら判断していくことが大切です。
あなたが見ている世界は、すべてではない
私は、スコトーマという考え方の面白さは、自分が正しいと思っている認識にも限界があると気づけるところにあると思っています。
今の自分には無理だと思っていることも、今の認識を基準にした判断かもしれません。これまで考えたことがなかった未来をゴールにすると、以前とは違う情報に注意が向く可能性があります。
その情報をもとに選択や行動が変われば、結果として人生の方向が変わることもあるでしょう。
未来の可能性を考えるとき、今の自分に見えている世界だけを基準にする必要はないのです。
参考文献
Simons, D. J., & Chabris, C. F. (1999). Gorillas in our midst: Sustained inattentional blindness for dynamic events. Perception, 28(9), 1059–1074.
情報空間やゴール設定を学びたい方へ
情報空間の書き換えやゴール設定、氣幸に興味がある方に向けて、無料の氣幸診断を用意しています。
