やってみたいことがある。ところが、いざ申し込もうとすると指が止まる。「失敗したら、立ち直れないかもしれない」。そんな未来が頭に浮かぶことはありませんか。
新しい仕事に挑戦する、人前で話す、学び直しを始める。まだ何も起きていないのに、失敗した後の気持ちだけが妙にはっきりしている。私は、ここにゴール設定を考えるうえで重要な問題があると感じています。
心理学では、未来の出来事によって自分がどう感じるかを予測することを「感情予測(affective forecasting)」と呼びます。今回は、失敗の不安が大きくなる仕組みを一次研究から読み解き、現状の外側のゴールと氣幸の考え方につなげます。
感情予測とは?未来の気持ちは正確に想像できるのか
感情予測とは、これから起きる出来事に対して、どんな感情を抱き、それがどれくらい強く、どれくらい続くかを見積もることです。面接に落ちたら落ち込む。希望の仕事が決まればうれしい。そう考えること自体は自然です。
ただし、感情が生まれることと、その強さや長さを正確に予測できることは別です。ある出来事の影響を、実際より長く見積もる傾向は「持続時間バイアス(durability bias)」と呼ばれています。
ここで誤解してほしくないのは、未来への不安がすべて間違いだという話ではないことです。失敗には現実の損失もあります。研究が扱っているのは、主にその出来事に伴う感情を、私たちがどう予測するかという問題です。
1998年の研究|人は落ち込みが続く時間を長く見積もる
Gilbertらが1998年に発表した研究では、恋愛関係の解消、仕事上の不採用、否定的な評価など、複数の状況について将来の感情反応を調べました。論文は6つの研究を報告しています。
その結果、人は否定的な出来事によるつらさが続く時間を過大に見積もる傾向を示しました。研究者たちは、その一因として「心理的免疫システム」の働きを予測に十分織り込んでいないことを挙げています。
ここでいう心理的免疫システムとは、出来事の意味を捉え直したり、気持ちを立て直したりする心理的な働きのことです。身体の免疫機能を指しているわけではありません。
もちろん、どんな失敗からもすぐ回復できるという結論ではありません。私が注目したいのは、未来を想像するときの自分が、未来の自分の対処する力を見落とすことがあるという点です。
2000年の研究|失敗した場面だけを見ていないか
Wilsonらは2000年、大学フットボールの試合結果をめぐる感情予測などを調べました。論文には5つの研究が報告されています。
試合の勝敗だけを考えると、その結果が自分の幸福感に長く影響すると予測しやすくなります。一方、試合後に予定されている別の活動について先に考えた参加者は、試合結果の感情的影響が続く時間を過大に予測しにくくなりました。
研究者たちは、ある出来事に注意が集中し、その後に起きるほかの出来事を十分に考慮しないことを「焦点化(focalism)」と呼んでいます。
失敗を想像するとき、私たちは失敗した瞬間の場面を何度も頭の中で再生しがちです。しかし、その後も食事をし、人と話し、仕事をし、別の出来事に出会います。そうした時間を含めずに未来を描くと、感情の見積もりが偏ることがあるのです。
ただし、フットボールの試合に関する実験結果を、失業や病気などの深刻な出来事へそのまま当てはめることはできません。出来事の性質と実際の危険は、分けて考える必要があります。
失敗が怖いとき、まず分けて考えたい二つのこと
たとえば、講座を開きたいのに募集を始められない人がいたとします。「誰も来なかったら恥ずかしい」と思う一方で、会場費を支払えなくなる心配もあるでしょう。
前者は、未来の自分がどれほどつらく感じるかという感情予測です。後者は、金額を計算できる現実のリスクです。この二つを一緒にすると、何を確認すればよいのかがわからなくなります。
私は、感情の予測には少し距離を取り、現実のリスクには具体的な対策を用意することをすすめています。会場費が心配なら損益分岐点を計算する。反応が怖いなら、まず少人数に案内してみる。怖さを無理に消す必要はありません。
「失敗したら終わり」という言葉が浮かんだときこそ、何が実際に終わるのかを確かめる。その問いだけで、次の一歩が具体的になります。
未来の不安を整理する、今日からできる実践
まず、挑戦を一つ選び、失敗した場合に起きそうなことを書きます。次に、その日の夜、一週間後、一か月後の生活をそれぞれ想像してみてください。
その間に自分がする仕事や、会う人、続いていく日常も書き添えます。これは2000年の焦点化の研究を参考にした私の整理法であり、論文の実験手続きをそのまま再現するものではありません。
そして、実際に失う可能性があるお金や時間、他人への影響は別の欄に記入します。必要なら予算の上限を決め、専門家に確認する。危険を見ないふりをして前に進むことと、恐怖の予測に人生を任せることは違います。

写真:Josiah Gardner / Unsplash
山道の先が見えなくても、足元の一歩を確かめることはできます。未来を全部見通してから動くのではなく、行動して得た情報で次を選ぶ。私は、この進み方を大切にしています。
現状の外側のゴールは、不安がない未来を選ぶことではない
ここで、現状の外側のゴール設定を考えてみましょう。今の能力や経験だけで無理なく達成できる目標を選んでいたら、未来は現状の延長線上に収まりやすくなります。
本当に望む未来を選んだとき、今の自分には方法がわからないこともあります。だから不安になる。その不安を、ゴールが間違っている証拠として扱わないことです。
大切なのは、ゴールを小さくすることではなく、今日の行動を具体的にすることです。たとえば人を育てる講師になるというゴールなら、まずは一人に説明してみる。行動の設計には、実行意図とメンタル・コントラストの考え方も参考になります。
感情予測の研究は、現状の外側のゴールの効果を直接検証したものではありません。それでも、自分の未来の感情を絶対視しないという視点は、ゴールを選ぶときの判断材料になります。
氣幸の「場の移動」は、気持ちの切り替えとは異なる
ここからは、私が伝えている氣幸の理論についてお話しします。心理学の感情予測は、未来の気持ちをどう見積もるかという研究です。一方、氣幸の「場の移動」は、失敗への不安を前向きに解釈し直すだけの技術ではありません。
私が伝える「一人一宇宙」では、一人ひとりの宇宙は重なり合わず、一点で接しています。その接点が物理空間です。人によってものの見え方が違う、という説明だけに置き換えることはできません。
また、氣幸で扱う情報空間には「次元の階層」という考え方があります。情報空間の書き換えと場の移動は、単に思考をポジティブにすることではなく、場そのものを扱うものとして私は教えています。
認知科学の研究結果を氣幸の仕組みの証明として流用することはしません。異なる領域を混ぜず、それぞれの意味を理解することで、学びは深まります。
失敗を恐れる自分のまま、未来を選んでいい
失敗が怖いのは、あなたが弱いからとは限りません。まだ起きていない出来事の感情を、強く、長く見積もっている場合があります。
だから私は、怖さをなくしてから動こうとは言いません。実際の危険は確認する。未来の感情は決めつけない。そのうえで、本当に望むゴールを選ぶのです。
自分がどのような学びに関心を向けているかを整理したい方は、無料氣幸診断もご覧ください。氣幸や情報空間の世界を知る入口として活用できます。
参考文献・一次資料
アイキャッチ写真:abdullah ali / Unsplash。本文写真:Josiah Gardner / Unsplash。図解2点:情報空間ラボ(KOU)制作の説明用オリジナル図。

コメント