遠い未来のゴールほど魅力的に見える理由|心理的距離と行動のつなぎ方

遠くの山並みに向かって続く山道。将来のゴールを見渡すイメージ。撮影:Tobias Rademacher/Unsplash ゴール設定

遠い未来のことを考えているときは、胸が躍るほど魅力的だったゴール。それなのに、いざ実現に向けて動こうとすると、急に難しく感じることがあります。

「今の自分には無理ではないか」「何から始めればいいのだろう」。そう考えているうちに、最初に描いた未来が小さくなってしまう。

私は、ここにゴール設定で見落としやすい問題があると考えています。未来を描くときと、今日の行動を決めるときでは、頭の中で注目するものが違うのです。今回は、その違いを心理学の「心理的距離」という研究から見ていきましょう。

心理的距離とは? 未来が遠いほど考え方が変わる

心理的距離とは、いま、ここにいる自分から、対象がどれほど離れていると感じるかということです。時間的な遠さだけではありません。場所の遠さや、他人との距離、出来事が起こる可能性の低さも含まれます。

心理学者のヤーコブ・トロープとニラ・リバーマンは、2010年の論文で「解釈レベル理論」を整理しました。人は心理的に遠い出来事を、より大きな目的や全体像で捉えやすく、近い出来事は具体的な手順や細部で捉えやすい、という考え方です。

例えば「いつか自分の講座を開きたい」と考えるときには、受講者に何を届けたいのかという目的が浮かびます。ところが開催日が近づくと、会場の予約や資料の準備が気になってくるでしょう。どちらも必要な視点ですが、見ているものは同じではありません。

なお、ここでいう心理学の「解釈レベル」は、氣幸で扱う「次元の階層」と同じ概念ではありません。言葉が似ていても、理論の対象を混同しないことが大切です。

遠い未来は「魅力」、近い未来は「実現可能性」を重視しやすい

リバーマンとトロープが1998年に発表した研究は、この違いを具体的に示しています。研究では、遠い未来の選択では「その活動をしたいか」という望ましさが、近い未来の選択では「実行しやすいか」という実現可能性が、相対的に重視される傾向が見られました。

学生が課題を選ぶ実験でも、先の時期に取り組む課題では興味の高さが、近い時期に取り組む課題では難しさが、選択により強く関係していました。

この結果は、遠い目標なら必ず実現するという意味ではありません。人の判断で、何を重く見るかが時間的な距離によって変わる、ということです。

ゴール設定に引き寄せて考えると、今の能力や条件を基準に未来を決めようとした瞬間、まだ存在しない未来を現在の事情で狭めてしまうことがあります。

ノートに向かって行動計画を考えるための机の写真
写真:Joonas Sild/Unsplash

では、具体的に考えるほど行動しやすくなるのか?

ここで、少し意外な研究があります。藤田健太郎らは2006年、考え方の抽象度を変える操作を用いた6つの実験を報告しました。全体的・目的志向の捉え方を促した条件では、目先の報酬より先の結果を選ぶ傾向や、誘惑への評価、持久的な課題への取り組みなど、自己制御に関わる指標に違いが見られました。

つまり、細かな手順を考えることだけが行動の助けになるわけではありません。何のために取り組むのかという大きな視点も、目先の選択を支える可能性があります。

ただし、この実験から、抽象的に考えればどんな目標も達成できるとは言えません。研究で測られたのは、特定の実験条件での判断や行動です。

ゴールを小さくせず、今日の一歩を決める

私が勧めたいのは、ゴールそのものと、その実現方法をいったん分けて扱うことです。

まず、今の自分にできるかどうかを脇に置いて、どんな未来を本当に望んでいるのかを描きます。ここで先に方法を決めようとすると、知っている方法の範囲に未来を閉じ込めやすくなります。

方向が見えたら、今度は今日の行動を考えます。たとえば講座を開きたいなら、今日できることは一人の受講候補者の悩みを聞くことかもしれません。その一歩が小さくても、ゴールまで小さくする必要はありません。

ゴールの方向と、今日の一歩
遠い未来を見るとき
何のために、それを実現したいのか
望む未来・目的・大切にしたい価値
今日の行動を決めるとき
今日、何を一つ進めるか
最初の連絡・調査・練習など、着手できる単位
図:情報空間ラボ作成。心理学の解釈レベル理論を参考にした実践上の整理であり、研究で検証された手順そのものではありません。

大事なのは、今日の行動が小さいからといって、未来の価値まで小さく評価しないこと。反対に、未来が大きいからといって、今日の準備を軽視しないことです。

行動を考え始めた途端に不安が強くなったら、少し視点を戻してみてください。「どうやるか」の前に「なぜそれを実現したいのか」。その答えが、手段を選び直す基準になります。

氣幸の「場の移動」とはどうつながるのか

ここまで紹介した心理的距離や解釈レベル理論は、人の判断や行動を研究する心理学の枠組みです。私が氣幸で扱う「場の移動」は、それを別の言葉で言い換えたものではありません。

氣幸では、現在の延長だけで未来を決めるのではなく、現状の外側にゴールを設定し、ゴール側の場へ移動するという考え方を大切にしています。私が講座で伝えているのも、今の自分に見えている選択肢を、そのまま未来の限界にしないことです。

心理学の研究は、未来との距離によって判断の焦点が変わることを理解する助けになります。一方で、氣幸の場の移動は独自の理論と実践です。両者の違いを保ったまま考えると、ゴール設定への理解が深まります。

関連して、現状の外側のゴールの決め方と、「一人一宇宙」と場の移動の基本も読んでみてください。

森の小道にある木の橋。目的地に向かって進むことを象徴する風景
写真:T/Unsplash

未来の方向が定まると、今日の選択が変わる

大きなゴールを描いたとき、すぐに実現方法が分からなくても構いません。そこでゴールを取り下げるのではなく、まず方向を持つ。方法はその後に探し、試し、必要なら変えていけばいいのです。

今日、ノートを開いて一つだけ書いてみてください。「私が本当に実現したい未来は何か」。答えが出たら、その未来に向けて今日できる行動を一つ選びます。

もし氣幸や情報空間の学びに関心があるなら、無料の氣幸診断から、今のあなたが興味を持っている分野を確かめてみてください。

参考にした一次研究

・Liberman, N., & Trope, Y. (1998). The Role of Feasibility and Desirability Considerations in Near and Distant Future Decisions. Journal of Personality and Social Psychology, 75(1), 5–18. 原著論文(DOI)

・Fujita, K., Trope, Y., Liberman, N., & Levin-Sagi, M. (2006). Construal Levels and Self-Control. Journal of Personality and Social Psychology, 90(3), 351–367. 原著論文(PubMed)

・Trope, Y., & Liberman, N. (2010). Construal-Level Theory of Psychological Distance. Psychological Review, 117(2), 440–463. 原著論文(PubMed)

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