記憶は書き換わるのか?再固定化の研究と「過去が変わる」ゴール設定

古い本と書類が置かれた机。記憶を振り返るイメージ 認知科学

昔の出来事を思い出したとき、以前とは違う感情が湧いたことはありませんか。あのときは失敗だと思っていたのに、今振り返ると、その経験が大きな転機だったと感じる。そんなことがあります。

私が今回お話ししたいのは、「記憶は一度保存されたら、そのまま残り続けるのか」というテーマです。認知科学では、思い出すという行為そのものが、記憶のあり方に関係することが研究されています。

そして氣幸では、ゴールが設定されることで現在だけでなく過去そのものが変わる、という「場の移動」を扱います。両者は同じ理論ではありません。その違いも含めて、丁寧に見ていきましょう。

記憶は、過去を再生する録画ではない

机の引き出しから古い写真を見つけたとします。写真に写っている景色は同じでも、そのときの気持ちや人間関係を、十年前と今とで同じように受け止めるとは限りません。

記憶についても、単に保存した映像を再生するという説明では捉えきれない部分があります。人は思い出す際に、手がかりやその後に得た情報の影響を受けます。これは、どんな記憶も自由に書き換えられるという意味ではありません。記憶には比較的安定した部分もあり、変化の起こり方は条件によって異なります。

質問の言葉だけで、事故の記憶が変わった実験

1974年、心理学者のエリザベス・ロフタスとジョン・パーマーは、交通事故の映像を見た参加者に、車の速度を推定してもらう実験を行いました。質問に使う動詞を変えると、推定速度が変わりました。

別の実験では、映像には存在しなかった割れたガラスについて、後から「見た」と回答する割合にも差が出ました。出来事の後に受け取った言葉が、記憶の報告に影響したのです。Loftus & Palmer(1974)原著論文

ここで大切なのは、実際の事故映像が変化したわけではないという点です。研究が示したのは、出来事について人が思い出し、報告する内容が、後の質問によって影響を受けるということでした。

窓辺に座って本を読む人。過去の出来事を思い返す場面
写真:Stanley Kustamin / Unsplash

記憶の再固定化とは何か

「記憶の再固定化(reconsolidation)」という言葉があります。すでに形成された記憶が、思い出されることで再び変化しやすい状態となり、その後に安定化する過程を指す概念です。

2000年に発表されたNader、Schafe、LeDouxの研究では、恐怖条件づけを行ったラットの記憶を再活性化した後、扁桃体にタンパク質合成を阻害する薬剤を投与しました。すると、後のテストで恐怖反応に影響が見られました。一方、記憶を再活性化しない条件では、同じ処置による影響は見られませんでした。Nader et al.(2000)原著論文

これは動物を対象とした、特定の恐怖学習についての実験です。人の複雑な人生経験が、思い出すだけで好きな内容に変わると示した研究ではありません。

人の記憶にも、新しい情報が入り込むことがある

では、人のエピソード記憶ではどうでしょうか。Hupbachらは2007年、大学生に物のリストを覚えてもらい、翌日に最初の学習を思い出させる手がかりを与えたうえで、別のリストを学習してもらいました。

さらに翌日、最初のリストを思い出してもらうと、手がかりを与えられた参加者は、後から学んだ物を最初のリストに混ぜて答えやすくなっていました。この混入は、二日目の直後のテストでは同じようには見られず、時間を経て現れた点が重要です。Hupbach et al.(2007)原著論文

思い出した記憶に新しい情報が入り込む現象が、人の実験でも観察されたわけです。ただし、記憶の再固定化が起こる条件や、どこまで内容が変わるかについては、研究ごとに違いがあります。

記憶の再固定化を考えるための模式図
研究で観察される一つの流れ。すべての記憶に必ず起こるわけではありません。
最初の経験
出来事を記憶する
→
思い出す
記憶が再活性化する
→
条件により変化
新情報が取り込まれる
情報空間ラボ作成/Hupbach et al.(2007)等をもとにした概念図

「過去の意味が変わる」とき、何が起きているのか

ここから少し、日常の話に戻ります。

例えば、以前の仕事を辞めたことを、長い間「逃げてしまった」と受け止めていた人がいるとします。その後、自分の望む生き方が明確になったとき、同じ退職経験が「新しい道を選ぶきっかけ」になることがあります。

これは特定の人の実話ではなく、考え方を説明するための例です。退職したという事実はそのままでも、その経験が今の自分にとって持つ意味は変わり得ます。

過去を振り返るとき、私たちは現在の立場から意味を与えています。だからこそ、今の自分が何を目指しているのかは、過去の見え方にも関係してくるのです。

氣幸の「場の移動」は、記憶の再固定化とは別の話

ここで、氣幸の話をします。

氣幸でいう「場の移動」は、単に思い出の解釈を変える技術ではありません。現状の外側にゴールを設定することで、今いる場から別の場へ移る。そして、そのゴールに対応する現在と過去そのものが変わると捉えます。

私が大切にしているのは、未来を現在の延長で決めないことです。今の自分の経験や評価を基準にすると、どうしても同じ場の中で未来を考えてしまいます。

記憶の再固定化は、記憶がどのような条件で変化するかを研究する概念です。一方、場の移動は氣幸で扱う、ゴールと世界の関係についての理論です。両者を混同せずに学ぶと、それぞれの意味が明確になります。

場の移動の考え方を初めて知る方は、「一人一宇宙」と「場の移動」の仕組みも読んでみてください。一人一宇宙の理論では、それぞれの宇宙は重なり合うのではなく、一点で接し、その接点が物理空間だと捉えます。

ゴールを持って、過去の経験を見直す

試しに、ノートを一冊開いてみてください。

まず、今も気になっている過去の出来事を一つだけ書きます。無理に強い苦痛を伴う記憶を選ぶ必要はありません。日常の中で、少し引っかかっている出来事で十分です。

次に、現在の延長ではなく、本当に望んでいる未来のゴールを思い浮かべてください。その未来から今の自分を眺めたとき、先ほどの出来事がどんな位置づけになるのかを書いてみます。

ノートとペン。過去の経験を現在の視点から整理するワークのイメージ
写真:Zoran Borojevic / Unsplash

ここで無理に「すべて良かったことにしよう」と考える必要はありません。納得できない出来事まで肯定するのは、私が伝えたいゴール設定ではないからです。

ただ、過去の出来事に一つの意味しか与えられないと思い込んでいたなら、その前提を見直す余地があります。未来のゴールが変わることで、これまで注目していなかった経験のつながりが見えてくることもあるでしょう。

現状の外側のゴールを考える際には、現状の外側のゴールとは?の記事も参考になります。

過去に縛られたまま、未来を決めなくていい

過去を振り返ること自体が悪いわけではありません。ただ、過去に付けた評価が、これからの人生を決める絶対的な基準になってしまうと、選択肢が狭くなります。

私は、まず未来にゴールを置くことを大切にしています。そこから現在を見ると、これまでの自分に対する見方も変わり始めます。

もし「どうせ自分には無理だ」という考えが浮かんだら、その判断がどんな経験から作られているのかを見てみてください。思い込みと事実を区別する手がかりとして、確証バイアスの記事も役立ちます。

氣幸をこれから学びたい方には、学ぶ方向性を整理するための無料の氣幸診断も用意しています。情報空間の書き換えやゴール達成など、どの分野を学びたいかを考える入り口として活用してください。

参考にした一次研究

・Loftus, E. F., & Palmer, J. C. (1974). Reconstruction of automobile destruction: An example of the interaction between language and memory. Journal of Verbal Learning and Verbal Behavior, 13(5), 585–589. DOI

・Nader, K., Schafe, G. E., & LeDoux, J. E. (2000). Fear memories require protein synthesis in the amygdala for reconsolidation after retrieval. Nature, 406, 722–726. DOI

・Hupbach, A., Gomez, R., Hardt, O., & Nadel, L. (2007). Reconsolidation of episodic memories: A subtle reminder triggers integration of new information. Learning & Memory, 14(1–2), 47–53. DOI

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