誰かに「これをやったほうがいい」と言われたとたん、なぜか気が進まなくなる。そんな経験はありませんか。
言われた内容には納得している。必要なことだともわかっている。それなのに、机に向かうまでが妙に重い。
私はゴール設定の話をするとき、何を目指すかと同じくらい、「その未来を誰が選んだのか」を大切にしています。立派な目標でも、他人の期待を引き受けただけなら、取り組み方が変わってくるからです。
この違いを考えるうえで参考になるのが、心理学の「自己決定理論」です。
自己決定理論とは?「やる気」の量より、理由に注目する考え方
自己決定理論(Self-Determination Theory)は、エドワード・デシとリチャード・ライアンらが発展させた動機づけの理論です。
ここで重要なのは、行動する理由の違いです。例えば、同じ資格の勉強でも「怒られたくないから」と「自分が実現したい仕事につながるから」では、本人の受け止め方が違います。
後者が必ず楽しいとは限りません。試験勉強は大変でしょう。それでも、その行動の意味を自分で納得して選んでいるなら、外から強制されているだけの状態とは異なります。
RyanとDeciの2000年の論文は、自己決定理論を整理し、人の動機づけや心理的な健康に関わる基本的心理欲求として、自律性、有能感、関係性を論じています。原著論文(Ryan & Deci, 2000)
自律性とは、何でも一人で決めることではない
「自律性」と聞くと、人の意見を聞かず、全部自分で決めることだと思われがちです。でも、自己決定理論でいう自律性は、単なる独立や孤立ではありません。
他人から教わったことでも、自分が価値を認めて取り組めば、自律的な行動になり得ます。
例えば、講座の受講生が先生に勧められた練習を始めたとします。最初は半信半疑でも、なぜその練習が必要なのかを理解し、自分のゴールと結びつけて取り組むようになったら、行動の意味は変わります。
ここで「自分で決めた」という感覚を取り戻せるかどうかが大切なのです。

デシが1971年に発表した実験研究では、外から与えられる報酬が、もともと興味を持っていた活動への動機づけにどう影響するかが検討されました。ここから「報酬はすべて悪い」と結論づけるのは正確ではありません。報酬や評価が、本人の行動を支えるものとして受け取られるのか、それとも管理されている感覚につながるのか。そうした条件の違いまで考える必要があります。原著論文(Deci, 1971)
選択肢があると、やる気は変わるのか
「自分で選べること」に関する研究もあります。
Patall、Cooper、Robinsonが2008年に発表したメタ分析は、子どもと成人を対象とした41研究を検討しました。その結果、選択肢を与えることは、平均的には内発的動機づけや努力、課題成績などの向上と関連していました。
ただし、選択肢は多ければ多いほどよいという結論ではありません。どんな選択をさせるか、比較対象がどのような状況かによって結果が異なることも報告されています。原著論文(Patallほか, 2008)
私はこの研究から、「人に何をさせるか」だけではなく、「本人がどう関わるか」を考える必要があると読み取ります。
仕事や家庭の都合で、すべてを自由に選べるわけではありません。けれども、同じ課題でも取り組む順番や方法を選べる余地はあるでしょう。
自分で選んだゴールと、他人から渡された目標の違い
ここで、ゴール設定の話に戻ります。
例えば、「売上を上げなければならない」という目標を持っている人がいるとします。その数字は、誰かと比較して決めたものかもしれません。
一方、「自分が本当に届けたいサービスを、必要としている人に届けたい」という未来から考えた場合、売上はその未来を実現するための指標になります。
数字を使うことが悪いわけではありません。数字が自分の望む未来とどうつながっているかが問題なのです。
私は、ゴールを現状の都合で小さくまとめる必要はないと考えています。現状の外側のゴールを設定するということは、今できることの一覧から未来を選ぶことではありません。
未来を先に決める。その未来に向かって、自分が何を選ぶのかを考える。ここに、他人から渡された目標との大きな違いがあります。
ゴールに向かう理由を見直す
他人の期待が出発点
「そうしなければならない」
目的を自分で納得できていない状態
望む未来が出発点
「私はこの未来を選ぶ」
必要な行動の意味を自分で引き受ける
※自己決定理論を参考にした説明用のオリジナル図解。心理尺度や研究データを示す図ではありません。
氣幸でいう「場の移動」とはどう違うのか
ここまで説明した自己決定理論は、人の動機づけを扱う心理学の枠組みです。
一方、私が教える氣幸の「場の移動」は、単に考え方や行動の理由を変えることではありません。自分の宇宙にある次元の階層を移動するという理論です。
「一人一宇宙」では、それぞれの宇宙は重なり合わず、一点で接し、その接点が物理空間だと考えます。
自己決定理論の自律性と、氣幸の場の移動は同じ現象を指す言葉ではありません。心理学から学べることは行動の選び方に活かしながら、氣幸では未来から現状を捉える実践を扱います。
この考え方の基本は、「一人一宇宙」と「場の移動」の仕組みで詳しく説明しています。
「やらなければ」を「自分が選ぶ」に変える練習
紙を一枚用意して、今「やらなければ」と感じていることを一つ書いてみてください。
次に、その行動がどんな未来につながっているのかを考えます。自分が本当に望んでいる未来と結びつかないなら、目標そのものを見直してもいいのです。
もし必要な行動だと納得できたら、今度は取り組み方を選び直します。人から言われた方法をそのまま使う必要がない場面もあるでしょう。
行動が止まる場合には、実行意図とメンタル・コントラストの記事も参考になります。こちらは、決めた行動を実行に移すための具体的な方法です。

未来を選ぶとき、他人からどう評価されるかを基準にしていないでしょうか。
その答えが変わると、同じ一日の見え方も変わってきます。自分が進みたい未来を、改めて考えてみてください^^
自分に合う学び方を考えている方へ
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参考文献
Ryan, R. M., & Deci, E. L. (2000). Self-determination theory and the facilitation of intrinsic motivation, social development, and well-being. American Psychologist, 55(1), 68–78. https://doi.org/10.1037/0003-066X.55.1.68
Patall, E. A., Cooper, H., & Robinson, J. C. (2008). The effects of choice on intrinsic motivation and related outcomes: A meta-analysis of research findings. Psychological Bulletin, 134(2), 270–300. https://doi.org/10.1037/0033-2909.134.2.270
Deci, E. L. (1971). Effects of externally mediated rewards on intrinsic motivation. Journal of Personality and Social Psychology, 18(1), 105–115. https://doi.org/10.1037/h0030644
掲載写真:Daria Glakteeva、Cabri Caldwell、Tunahan Kuzgun / Unsplash
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