集中できないのは意志の弱さ?「注意の残留」と作業を中断した後の戻り方

机に置かれたノートとペン。集中して取り組む時間をイメージした写真 認知科学

机に向かっているのに、なぜか仕事が進まない。

メールの返信を終えて資料を開いたはずなのに、さっきのやり取りが気になってしまう。画面を見つめているうちに、もう一度受信箱を開いている。

こんなとき、「自分は集中力がない」と考える人は少なくありません。しかし、問題は意志の強さだけではありません。前の作業から注意が離れきっていないことがあるのです。

今回は認知心理学で研究されている「注意の残留(attention residue)」を手がかりに、集中が途切れる仕組みと、日常でできる工夫を考えていきます。

注意の残留とは?作業を変えても頭はすぐに切り替わらない

注意の残留とは、ある仕事から別の仕事へ移ったあとも、前の仕事について考え続けてしまう現象を指します。

たとえば、企画書を作っている途中で電話に出たとします。電話の相手に答えながらも、頭の片隅では企画書の続きを考えている。反対に、電話を切って企画書へ戻ったときも、今度は電話で話した内容が気になっている。

目の前の作業は変わっていても、注意は完全には移動していません。

この問題を調べたのが、Sophie Leroyによる2009年の研究です。二つの実験を通して、前の課題から心理的に離れられないと、次の課題の成績に影響することが示されました。ただし、作業を終えさえすれば必ず切り替えられるわけではなく、前の課題を終える際の状況も関係していました。Leroy(2009)原著論文

作業机でスマートフォンを持つ人。作業の中断を示す写真
写真:Jonas Leupe / Unsplash

「中断されても仕事が速くなる」という意外な研究結果

ここで、少し意外な研究も紹介します。

Gloria Markらが2008年に発表した実験では、中断のあった参加者は、仕事をより短い時間で終えていました。作業の質に明確な差は見られなかった一方、ストレスや焦り、努力感は強くなっていたのです。Mark・Gudith・Klocke(2008)原著論文

「中断されたら、必ず作業時間が長くなる」とは言えません。人は急いで取り戻そうとすることもあります。ただ、その速さを支えるために、余計な負担が生じている可能性があります。

忙しい日ほど、ずっと動いていたのに疲労だけが残る。そんな感覚があるなら、成果だけでなく、そこに至る負荷にも目を向けたいところです。

中断前に「戻り方」を決めると何が変わるのか

では、どうしても仕事を中断しなければならない場合はどうでしょうか。

LeroyとTheresa Glombは2018年、作業を中断する前に「戻ったら何をするか」を具体的に考える方法を調べました。これを「ready-to-resume plan(再開のための計画)」と呼びます。

研究では、再開の計画を立てることが注意の残留を減らし、中断によって始まる別の課題での成績を改善することが示されました。一方、元の作業に戻った後の成績まで改善するかは、この研究では直接検証されていません。Leroy・Glomb(2018)原著論文

私なら、資料を閉じる前に「次は3ページ目の数値を確認する」と一行だけ書きます。「あとで続きをやる」では、再開時に何から始めるかをもう一度考えなければなりません。

図解|作業を切り替えるとき、頭の中で起こること
中断したまま移る

前の作業:「あの件、まだ終わっていない」

次の作業:注意の一部が前の仕事に向いたまま

再開メモを残して移る

前の作業:「次は資料の3ページ目を確認」

次の作業:戻る手順を決め、今の仕事に注意を向けやすくする

※研究内容をもとに作成した概念図。効果の大きさを示すグラフではありません。

集中できない日に試したい、再開メモの書き方

作業を中断するときは、ノートでも付箋でもかまいません。今どこまで終わっているかを確かめて、戻ってきた瞬間に着手できる行動を短く書いておきます。

たとえば「講座資料を完成させる」ではなく、「第2章の最初の見出しを決める」。大きな目標をそのまま残すより、次の動作が見える書き方です。

中断のたびに長い計画表を作る必要はありません。再開地点が分かれば十分です。戻ってきたらメモを読み、最初の一動作から始めます。

ノートにペンを持ちながらスマートフォンを見る手元
写真:Emma Dau / Unsplash

なお、これはどんな人にも必ず効く万能な方法という意味ではありません。仕事の性質や中断の頻度によって状況は異なります。まずは自分の作業で試し、使いやすい形に調整していくのが現実的です。

ゴール設定と「今日の集中」は、どうつながるのか

ここまでの話は、目の前の作業に注意を向けるための工夫です。しかし、私がゴール設定で大切にしているのは、今の仕事を効率よく片づけることだけではありません。

そもそも、何のためにその仕事をしているのでしょうか。

予定に追われていると、目の前の用事を終わらせること自体が目的になりがちです。けれども、未来に実現したいことがあるなら、その未来から現在の行動を選び直す必要があります。

「現状の外側のゴール」は、今の延長だけで考えないゴールのことです。まだ実現方法が分からないからといって、最初から可能性を小さくする必要はありません。詳しくは現状の外側のゴールとは?でも解説しています。

ゴールが定まった後は、その未来に向けて今日どの行動を選ぶのかを考えます。そこで初めて、注意を向ける対象を整理する工夫が生きてくるのです。

氣幸でいう「場の移動」は、単なる集中術ではない

氣幸では、現状の外側にゴールを設定し、そのゴールが実現している場へ移動することを重視しています。これを私は「場の移動」と呼んでいます。

注意の残留を減らすことは、認知心理学の研究に基づく日常の工夫です。一方、氣幸の場の移動は、それを言い換えたものではありません。私が伝えているのは、未来のゴールを起点に、現在、そして過去そのものが変わるという「場の移動」の考え方です。

氣幸の「一人一宇宙」では、それぞれの宇宙は重なり合わず、一点で接し、その接点が物理空間であると捉えます。この独自の理論と、注意の残留を調べた心理学の実験結果は、混同せずに学ぶことが大切です。

初めての方は、「一人一宇宙」と「場の移動」の仕組みから読んでみてください。

「集中力がない」と決めつける前に

やりかけの仕事が頭から離れないなら、まずは次に戻る場所を決めてみる。小さな工夫ですが、注意の切り替えを助ける研究上の根拠があります。

また、習慣と環境の関係を解説した記事でも触れたように、行動は本人の意志だけで決まるものではありません。

私は、今日の集中を整えることと、どんな未来を生きたいかを決めることを、別々の問題として大切にしています。目の前の一歩を選びやすくしながら、向かう先は今の自分の限界で決めない。その両方を忘れずにいたいですね。

氣幸を学ぶ入口として、無料診断を用意しています

氣幸には、情報空間の書き換えやゴール達成を学ぶ道があります。ヒーリングや浄化・防御を学びたい方もいるでしょう。

何から学び始めるか迷っている方には、学びたい方向を整理するための無料の氣幸4タイプ診断を用意しています。ご自身の関心に合う入口を見つけてください。

参考文献

Leroy, S. (2009). Why is it so hard to do my work? The challenge of attention residue when switching between work tasks. Organizational Behavior and Human Decision Processes, 109(2), 168–181. DOI

Mark, G., Gudith, D., & Klocke, U. (2008). The cost of interrupted work: More speed and stress. Proceedings of CHI 2008, 107–110. DOI

Leroy, S., & Glomb, T. M. (2018). Tasks Interrupted: How Anticipating Time Pressure on Resumption of an Interrupted Task Causes Attention Residue and Low Performance on Interrupting Tasks and How a “Ready-to-Resume” Plan Mitigates the Effects. Organization Science, 29(3), 380–397. DOI

コメント

タイトルとURLをコピーしました